ショック・ドクトリンにご用心!組合つぶし法案と米国の火事場泥棒

2011/3/9(Wed)
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日本では未曾有の自然災害と原発事故という最大の国難のさなかに、無策を糾弾された総理が退陣を表明し、大連立が叫ばれています。党利党略を捨てて協力して国難にあたるそうですが、いったいなにをなさるのかは明確ではありません。消費税引き上げ、TPP参加、コンピューター監視法案(共謀罪の一部切り離しです)など、およそ災害対策とは無関係な政策がごり押しされる気配もあります。社会的な危機の中では、強力なリーダーシップによる決然とした対応が必要です。しかし、ひとつ間違えば危機に乗じた権力の集中につながります。そんな時間はないといって民主的な幅広い議論を退け、これしか方法はないのだと騙して国民に犠牲を強いることを許しかねません。

金融危機に端を発する深刻な不況の中で、米国の各州で労働組合運動をつぶすための法律が次々と導入され、これに反対する大衆の抗議行動が全米に広がっています。ウィスコンシン州では財政危機を口実に、公務員の団体交渉権を奪う法案が強引に可決され、これに反対する住民が州の議事堂を埋めつくすほどの記録的なデモを行ないました。ミシガン、インディアナ、オハイオなどでも同様のデモが起きています。こうした事態にナオミ・クラインが『ショック・ドクトリン』で論じた火事場泥棒理論が注目されています。すなわち、大きな社会の危機に見舞われると国民は一時的なマヒ状態に陥りますが、市場原理主義者たちはそのすきを狙って、かねてからあたためてきた改革を断行するのです。目の前の危機を解決することとは何の関係もない、非民主的な格差社会をもたらす政策が推し進められます。アルゼンチンやロシアやイラクで実行されてきたショック・ドクトリンが、ついに米国でも始まったとポール・クルーグマンのような人は言います。

米国で起きることは、いずれ日本でも繰り返されます。民主主義を踏みにじる手法は、よくみるととっても似ています。ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事は、組合つぶしを公約に掲げて当選したわけではありません。有権者に約束した政策はそっちのけで、信任されてもいない政策に血道を上げている。もうすぐ退場の予定のわが国の内閣とそっくりです。まあ、無理もありません、オバマ大統領がお手本を示しているのですから。金持ちには増税し、勤労世帯には減税すると選挙戦では言っていたのに・・・

ここまで有権者がコケにされるようでは、行動に出るしかありません。大勢が街頭に出て抗議の声を上げ、しりごみする政治家たちにハッパをかける必要があります。ウィスコンシン州の教訓は、改革を求める有権者の姿が民主党の政治家を動かし、あるべき行動をとる勇気を与えたのだとクラインはいいます。(中野)

★ ニュースレター第41号(2011.6.20)

ナオミ・クライン(Naomi Klein)数々の賞を受賞したジャーナリスト。『ブランドなんか、いらない』、The Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism『ショック・ドクトリン:火事場泥棒の資本主義』の著者

Credits: 

字幕:桜井まり子 サイト:丸山紀一朗 全体監修:中野真紀子