チリの経済学者マンフレッド・マックスニーフ:米国は「発展不全国」になりつつある

2010/9/22(Wed)
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オバマ大統領の経済チームはウォール街出身者で固められ、ローレンス・サマーズが国家経済会議委員長を退いた後も、後任に指名されたのはまたもや金融業界(ゴールドマンサックス)出身のジーン・スパーリングでした。こうした人々が舵を取る米国の経済政策の方向性とは対極にある、人間の尺度から考える経済学に耳を傾けてみましょう。

チリの経済学者マンフレッド・マックスニーフは、人間の基本的なニーズに基づいた人間開発モデルで知られています。1960年代にカリフォルニア大学バークレー校で経済学を教え、その後米国やラテンアメリカ各地の大学で教える傍ら、現地の貧困社会に入って調査研究を重ねてきました。その体験を通じて、そうした現場では従来型の経済理論はなんの役にも立たないことを痛感します。

第三世界の開発がうまくいかないのは、従来型の開発モデルそのものが一因であり、これらの地域に貧困、債務、環境破壊をもたらしてきたと考えるようになりました。マックスニーフは1981年にラテンアメリカでの体験をFrom the Outside Looking In: Experiences in Barefoot Economics(『外側からの観察:裸足の経済学』)に記し、チリに人間の基本的ニーズに基づいた開発を推進するための「オルターナティブ開発センター」(Centre for Development Alternatives)を設立しました。

マックスニーフは新しい経済学の基本原理として5つの公理と、1つの根本的な価値観を挙げています。

その1 経済が人に仕えるのであり、人が経済に仕えるのではない
その2 開発はものでなく人が対象である
その3 成長と開発は同義ではなく、開発は必ずしも成長を必要としない
その4 生態系の恩恵なくして経済はありえない
その5 経済は生物圏という有限なシステムの下部システムであり、それゆえ永久成長は不可能である

そして新しい経済を持続させるのは、「経済的な利害が生命の尊厳に優先することは、どんな場合であっても許されない」という基本的な価値観です。(中野)

マンフレッド・マックスニーフ(Manfred Max-Neef
チリの経済学者。(『外側から見た経験:裸足の経済学』)を発表し、1983年にライトライブリフッド賞を受賞した
マンフレッド・マックスニーフ(Manfred Max-Neef) チリの著名な経済学者。1981年にOutside Looking In: Experiences in Barefoot Economics(『外側からの観察:裸足の経済学』)を上梓し、1983年にライト・ライブリフッド賞を受賞。1993年には無党派でチリ大統領選挙に出馬し、5%以上を得票した。

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字幕翻訳:大竹秀子/校正:中野真紀子
全体監修:中野真紀子・付天斉