『トランプランドのマイケル・ムーア』(2)「人間火炎瓶」トランプを投げつけろ
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トランプ政権発足から1年余りが経ちました。大統領選時から「トランプ」の名前がメディアに登場しない日はほぼないと言っても過言ではなく、最近ではアフリカやハイチ、エルサルバドルといった国々に対する「肥溜め」発言など一国のトップとしては信じられない言動は、むしろ拍車がかかっているようにも見えます。
しかし実のところ、私たちはトランプ大統領の発言の品位のなさや主張がころころ変わることなどにもはや耐性がついてきて、ひどいニュースにも「またか」と驚かなくなってきているのではないでしょうか。そういった意味でも、大統領選直前に作成されたマイケル・ムーア監督の映画『トランプランド』を取りあげた動画を見て、当時を振り返ることには意義があると思われます。
時は2016年、映画の舞台となったのはオハイオ州、トランプ支持者がほとんどでも名はクリントン郡というところです。800人ほどの観客の前で、ムーア監督が独演する様子を収めています。一種のスタンドアップ・コメディとも言え、ユーモアを交えて「トランプに投票するとはどういうことか、その結果はどうなるか」を語っています。
監督はトランプを「人間火炎瓶」であるとし、それを現行体制にぶつけることは「合法的テロだ」と指摘します。自身もミシガン州の出身で、保守的な人々に囲まれて育ったムーア監督が彼らの怒りに満ちた言い分を「代弁」するところは真に迫っており秀逸です。「現行システムのせいで仕事も家も失った俺らに最後に残ったものは、一票の権利。それを使って、職業政治家やエリートどもに一矢報いるのさ」とばかりにトランプに投票することは「最高の憂さ晴らし」。ああ、気分良かった、やってやったぜ!さて、その結果は…
一票を使っての「憂さ晴らし」をすでに実行済みのイギリスのEU離脱を引き合いに出して、「後悔しても遅い」と力説したムーア監督でしたが、その声は残念ながらアメリカの有権者の多くには届きませんでした。「さようなら、アメリカ。米国最後の大統領が選ばれました」トランプが大統領に選ばれたら、4年後にはアメリカは良くも悪くも自分の知る国とは別物になっているだろう。そうなって欲しくないという思いを込めた言葉が、今重く響きます。
「トランプランド」の中で最も強烈な印象を残すのは、マイケル・ムーア監督が長く長く続く恐竜の叫び声を実演してみせるところかもしれません。米国の人口動態を見た時、白人は停滞・減少傾向なのに対し白人以外の人種は増加傾向にあり、このままでいけば2040年代には白人が「マイノリティ」に転じるであろうとの予測も出ています。その恐怖こそが白人層をトランプ大統領に投票させた要因の一つであり、トランプ支持者の白人男性を絶滅する恐竜に例えるのは、まったくもって的を得ていると言えるでしょう。
今年はアメリカ中間選挙の年です。トランプに投票した人たちは、「一票の憂さ晴らしでしてやった」高揚感をまだ持ち続けているのでしょうか。自分たちが選んだ大統領に、その政策に、最初は反発しその後すり寄っていった共和党に、通り一遍に批判することしかできない瀕死の民主党に、どういった評価を下すのか。目が離せない状況が続きそうです。(仲山さくら)
*マイケル・ムーア(Michael Moore):ミシガン州フリント市出身の活動家、映像作家。2016年の大統領選挙直前に突然、『トランプランドのマイケル・ムーア』を発表し、話題をさらった。
字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟 千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子 全体監修:中野真紀子