「ロー対ウェイド」判決が覆されて半年 米国の「中絶の権利」の現在地(前半)

2023/1/18(Wed)
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☆学生字幕翻訳コンテスト2023の授賞作品です

米国では50年にわたり妊娠中絶は憲法で保障された権利であるとされてきましたが、その根拠となる1973年の「ロー対ウェイド裁判」の判例が、保守派判事が多数を占める連邦最高裁の判決で覆されてしまいました。2022年6月24日の「ドブス対ジャクソン女性健康機構裁判」の判決です。これにより州法によって安全な中絶を受ける権利を制限することが可能になり、12の州では中絶医療が全面的に禁止されました。望まない妊娠をしている人々は中絶手段を求めて金銭的にも健康的にも大きなリスクを負うことになり、特に貧困層への打撃は大きなものです。

憂鬱な事態ですが、その一方で希望も膨らんでいます。判決に反発して中絶の権利を守り抜こうとする動きが各地で盛り上がっているのです。国立生殖医療研究所の調べでは、ドブス判決から3カ月のうちに、17の州と24の地方自治体が中絶機会の拡大や保護に動きました。中絶を禁止する諸州の中でさえ、郡や自治体のレベルでは中絶医療の犯罪化を抑制するなど、影響を緩和する政策がとられています。トランプ政権が送り込んだ保守派の判事による中絶権のはく奪は、皮肉なことにリプロダクティブ・ライツ(性と生殖についての選択権)の要求を活性化させる結果になったようです。

ネイション誌で中絶アクセスの問題をカバーしてきたエイミー・リトルフィールド記者は、各地で活性化する中絶権擁護のさまざまな動きを紹介して、このような大きなうねりが起きたのは米国では画期的なことだと指摘します。草の根の市民運動のすさまじい勢いが、これまで動きの鈍かった民主党議員のお尻を叩いたのだと。確かに、共和党は早くから草の根保守の力に目をつけて積極的に取り込んできましたが、民主党もここにきてようやく地方政府の持つ大きな力に注目し始めたようです。今後どう発展していくのかが、期待されます。(中野真紀子)

*エイミー・リトルフィールド(Amy Littlefield):ネイション誌で中絶アクセス権をカバーする記者。ネイションの記事 "Cities and States Are Acting Fast to Blunt the Impact of Dobbs"

Credits: 

字幕翻訳:関谷祐子 (青山学院大学文学部英米文学科3年 受賞時)