オピオイドまん延の起原:20年前の情報隠蔽と製薬会社幹部の大罪を見のがす司法省

2018/6/1(Fri)
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28分

麻薬中毒、と聞いて思い浮かぶものは何でしょう?裏通りに立つ強面の違法薬物売人、ギャング、裏社会、そんなところでしょうか。しかし、米国で過剰摂取によりもっとも多くの命を奪っている薬物は、「病院で処方される鎮痛剤」だというのが実態です。
 2015年6月、トヨタの米国人役員が違法薬物を輸入したとして逮捕されました。結果的には不起訴となりましたが、彼女が小包に忍ばせて日本に持ち込もうとした薬こそ、全米で依存症患者を生んでいる、麻薬成分を含むオピオイド系鎮痛剤でした。麻薬取締り法の対象となる薬物が、米国では「腰痛のため」に処方され気軽に飲まれているということは当時驚きをもって受け止められました。
 米国でのオピオイドのまん延は深刻で、昨年トランプ大統領は「非常事態」を宣言し問題解決に数十億ドルの予算を投入するとしました。それから半年以上が経過し、オピオイド依存症患者の数は大きく減ったといつものトランプ節で自慢げに語りますが、最新の統計ではオピオイド過剰摂取による死亡者数は2017年10月でまでの1年間ではむしろ増加しているとのことです。このことは平均寿命にまで影響を与え、50年ぶりに米国の平均寿命が低下するという事態にまで及んでいます。
今回の動画では、オピオイド系鎮痛薬「オキシコンチン」について取り上げ、『鎮痛剤:詐欺の帝国と米国のオピオイドまん延の起源』のバリー・マイヤーさんに聞きます。
 オキシコンチンについて特筆すべきことは、1996年の発売以来、その中毒性の高さを隠したまま積極的なマーケティングが行われ急速に普及し、多くの依存症患者を生み出したにも関わらず、製造販売元が長い間何の罰も受けてこなかったことにあります。それは、豊富な資金力により批判を封じこめ、規制当局や司法当局の関係者を抱き込んだからこそ可能になりました。
 オキシコンチンの製造元であるパーデュー・ファーマ社の創業者一族、サックラー家については最近まで秘密のベールに包まれていましたが、その三兄弟のひとりは「悪の天才」だったと、マイヤーさんは言います。オキシコンチンを爆発的に広めた原動力となった広告、その手法を編み出したのはアーサー・サックラー氏でした。「私も使っています」と使用者に感想を語らせ、「これはこういう効能があっていいものです」と医師や専門家に語らせ信頼できるものだと印象付けるテレビコマーシャル。料金を払えば誰でも自社の製品の情報をもっともらしく発信できる「医学専門誌」を発行。今私たちが毎日目にしないことはないとも言える、現代広告のフォーマットを考え出したのです。
 病院で処方される痛み止めで依存症になるなどという、冗談のような状況が今も放置されていることには驚き呆れるばかりですが、そもそも依存性の高さに気づいていながらそれを隠して効き目だけを偽って過大に宣伝していたことは、犯罪というより他になく、動画の中で語られる具体的な販売推進のやり方には憤りを禁じ得ません。多くの医師や検事やジャーナリストがその罪を告発し正すことを試み、巨大企業の力に屈することになったのは残念なことです。ですが、今回取り上げられた著作による告発や、多額の罰金を課する判決が出たケンタッキー州に続き、多くの自治体がパーデュー社に対し訴訟を起こしていることには、米国の強さを感じることができるとも言えます。(仲山さくら)

*バリー・マイヤー(Barry Meier):Pain Killer: An Empire of Deceit and the Origin of America’s Opioid Epidemic (『ペインキラー ~詐欺の帝国と米国のオピイド蔓延の起原』)(2003年初版、2018年改訂版)の著者。オキシコンチンの濫用に初めて全国的な注目を喚起したジャーナリスト。元ニューヨークタイムズ記者

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字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
監修:中野真紀子