キャンベル教授 リビア介入をめぐる欧米の偏見、アラブの偏見

2011/3/2(Wed)
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西側の軍事介入の危機が高まるリビアの現状について、シラキュー ス大学のホレス・キャンベル教授に話を聞きました。民主化要求運動への弾圧をめぐる西側の報道や介入の是非をめぐる議論の中から、アフリカとアラブの2つの世界にまたがるリビアにまつわる様々な認識上の問題が浮かび上がります。

「カダフィ派の軍勢」は国内の民主化勢力を弾圧するためにカダフィが雇った外国人傭兵とされます。しかし、その多くは中東やアフリカの同盟国や、長年カダフィが支援してきたリベリアのチャールズ・テイラーやシエラレオネのフォディ・サンコーなどの反政府ゲリラ勢力の軍人です。今は自国民を弾圧している独裁者カダフィも、ナセルに心酔して欧米支配からの脱却を図った青年革命家のなれの果てなのです。それゆえに、欧米指導者から「狂犬」とか「テロリスト」呼ばわりされたこともありました。カダフィ軍は「自国民を虐殺するために雇った傭兵」という表現にも、一定の偏見がつきまとっています。

いっぽうリビアに出稼ぎに来ていて戦闘に巻き込まれた人々もいます。このうち特にサハラ以南の出身の黒人系アフリカ人は、無差別なレイプや虐殺を行っているというウワサが流れたおかげで、リビア人からの攻撃を受けています。その背後には、リビアの民主化勢力のあいだの排外主義や黒人差別があります。欧米による植民地支配を受けアラブへの差別と偏見に苦しめられてきた彼らが、西洋の偏見をそのまま取り込んだようなアフリカ系に対する優越感を民主化要求運動の中で露呈させているのは皮肉です。

リビアの民主化運動への対応をめぐる議論には、こうした複雑な言葉のわながかぶせられているようです。(中野真紀子)

*ホレス・キャンベル(Horace Campbell)シラキュース大学のアフリカン・アメリカン研究および政治学の教授

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字幕翻訳:大竹秀子/サイト作成:中森圭二郎/全体監修:中野真紀子