「プラン・メキシコ」麻薬撲滅に名を借りたNAFTAの軍事化

2008/7/31(Thu)
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26分

北米自由貿易協定(NAFTA)発効から15年、当初約束された経済繁栄とは裏腹にメキシコは米国に安価な労働力を供給する移民工場になっています。それに追い討ちをかけるように、ここへきてNAFTA軍事化の動きが顕在化してきました。ブッシュ政権が2008年6月に打ち出した麻薬撲滅政策「プラン・メキシコ」は、社会経済対策をおろそかにして軍事方面ばかりに力を入れています。初年度予算4億ドルの大半は、米政府と契約する傭兵会社とメキシコ軍の手にわたります。

冒頭で紹介されるのは、アルジャジーラが放映した麻薬撲滅戦争最前線の町シナロア州クリアカンのルポです。米国への密売で年間数百億ドルを稼ぎ出す麻薬ビジネスをめぐり、兵士や警官が射殺され、多数の市民が巻き添えになっています。カルデロン大統領の就任以来、4千人以上が麻薬がらみの犯罪で殺されました。原因の一つは街にあふれる米国製の武器です。ブッシュ政権の規制緩和で自動式ライフルが買いやすくなり、毎日2千丁の火器が米国からメキシコに密輸されています。国境管理の強化は、麻薬と移民の流入を防ぎたい米国側の望みであるだけでなく、武器流入を防ぎたいメキシコ政府の要求でもあります。しかし、その裏には別の思惑もあるようです。

NAFTAは2005年、北米3国の経済協定から安全保障合意へと拡大されました。これによりカナダとメキシコは米国の安全保障の傘の下に取り込まれ、ブッシュ政権のテロ戦争に巻き込まれることになります。プラン・メキシコはテロ対策や国境警備を含む地域安全保障協定であり、麻薬戦争を口実にNAFTAを武装するものだと、ローラ・カールセンは言います。

その目的の1つはメキシコの石油です。メキシコ政府は石油事業の民営化を狙っていますが、これには国民の大反対が予想されます。そのため社会全体を軍事化し、国家の支配力を強化しようとしているというのがカールセンの見方です。街頭に軍を配備して民営化反対の運動を弾圧する準備であり、プラン・メキシコは軍や警察による人権侵害を助長することになるでしょう。

弾圧されるのは主に社会運動です。チアパス州のサパティスタ運動に例をとれば、麻薬製造を捜査するという建前で軍隊が入り自治共同体を攻撃しています。天然資源や自治を守るための闘争で、先住民が危機にさらされているのです。(中野)

* アビ・ルイス(Avi Lewis) アルジャジーラ英語版のレギュラー番組「インサイドUSA」 Inside USA, のホスト。映画作家としてアルゼンチンの労働者による工場奪還運動を扱った『テイク』The Take をナオミ・クラインと共同制作した。

* ローラ・カールセン(Laura Carlse)メキシコシティにある国際政策センター米州政策プログラムの責任者。米国とメキシコの関係について多数の著書があり、ブログも運営している。プラン・メキシコについての報告書A Primer on Plan Mexicoはこちら

* ジョン・ギブラー(John Gibler) メキシコ在住の独立ジャーナリスト、グローバルイクスチェンジの人権問題担当フェロー。近刊書はMexico Unconquered: Chronicles of Power and Revolt

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字幕翻訳:田中泉/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子