エイモリー・ロビンズ:原子力は気候変動を悪化させる

2008/7/16(Wed)
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気候変動の顕在化で一刻も早く対策を迫られる中、クリーンなエネルギーとしてさかんに持ち上げられているのが原子力です。今年前半には原油価格が高騰し、石油輸入からの脱却が急務となる中、ブッシュ大統領もマケイン、オバマ両大統領候補も政策が一致したのは原子力発電の拡大でした。「欧米で最も影響力のあるエネルギー問題の思索家」と言われる科学者エイモリー・ロビンズに、この問題について聞きました。

ロビンズによれば、原子力は石油の代替にはなりません。米国では火力発電の主力は石油ではなく石炭ですから、原子力が置き換えるのは石炭です。したがって、安全保障上の利点はありませんが、それでもCO2削減にはよさそうに聞こえます。でも原子力の拡大は、じつは気候変動にも不利だとロビンズは言います。その理由はコストが跳ね上がっていることです。電力消費の効率化やマイクロ発電のような他の温暖化対策に比べてコスト効率が極端に劣るため、より優れた気候対策を差し置いて原子力を拡大することは相対的にマイナスです。

原発がもてはやされているかのように言われるのは、たくみに作られた幻想だとロビンズは言います。原発のコストは風力発電の3倍と、おそろしく不経済なので、民間企業はたとえ補助金がついても原発に投資したがりません。原発を買うのは税金を使う役人だけなのです。

世界全体の原発の能力は2006年に微増しましたが、すべて設備の更新によるものであり、老朽施設の閉鎖が新設を上回ったと言います。 原発の能力増は太陽発電よりも少なく、風力の10分の1、マイクロ発電の40分の1でした。この年初めてマイクロ発電が原子力を抜き、世界の発電量の6分の1を占めるようになりました。マイクロ発電が総電力の半分に達する国もあります。世界一原発に熱心な中国でも、2006年末のマイクロ発電の能力は原発の7倍でした。

環境運動家の中にも少数ですが原発推進派がいます。原発はCO2を出さないから、というのが推進の根拠ですが、ロビンズはそれだけではだめだと言います。CO2を出さない上に、安くて早く実現できるエネルギーが必要なのだと。再生可能エネルギーや省エネはCO2を出さないし、廃熱発電もCO2を出しません。最善の気候対策のためには賢い投資が必要です。年間を通じて有効で、最も経済的な対策は、どうやら身近なところにある省エネ対策のようです。(中野真紀子)

★ ニュースレター第12号(2009.3.25)
★ DVD 2009年度 第1巻 「環境とエネルギー」に収録

エイモリー・ロビンズ(Amory Lovins) コロラド州のNPO「ロッキーマウンテン研究所」の代表。1982年に同研究所を共同設立し、エネルギー・資源問題に関する旺盛な執筆活動をしている。世界8カ国の政府、米国の20の州政府にエネルギー政策を提言してきた。膨大な著作があり、『ソフト・エネルギー・パスから永続的な平和への道』、『ブリトルパワーから現代社会の脆弱性とエネルギー』、『スモール・イズ・プロフィタブル―分散型エネルギーが生む新しい利益』などが邦訳されている。http://www.ecostation.gr.jp/interview/1996/6.html

Credits: 

字幕翻訳:桜井まり子/校正:関房江
全体監修:中野真紀子